カミュの異邦人とシーシュポスの神話を読んで、不条理文学と不条理哲学を考える

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青いノートと本のタイトル 異邦人とシーシュポスの神話

カミュの「異邦人」と「シーシュポスの神話」は、セットで読むことをオススメします。

なぜなら「異邦人」で感じた違和感を「シーシュポスの神話」で探究すること、これこそがこの作品を味わいつくすのに必要だからです。

海水浴や太陽がストーリーに出てくるので、暑い夏に読むのがオススメです。

†黑ミリ†

カミュの異邦人は、文庫本だとこの新潮文庫しかないので他の訳者で読めないのが、少し残念ではあります。

カミュの哲学エッセイはこちらです。

目次

異邦人を読んだ感想

異邦人の内側の表紙

アルベール・カミュの代表作「異邦人」は、160ページに満たない作品でしかも難しい言葉などもなく、ストーリー展開も早くてスラスラ読める小説でありながら、読後には訳のわからない気持ちになる・・・。

これが不条理文学というものかと、感嘆するばかりでした。

私がこの作品について言えることはただひとつ、不条理文学ここに極まれり。

登場人物の誰にも感情移入することができなかったということもあって、むしろこの作品は何を伝えようとしているのかと考えたくなる、考えざるをえないそんな作品だと思いました。

誰にでも読める文体で書かれている小説ですが、研究者も多く関連する本も出版されています。

異邦人の関連本はこちらです。

†黑ミリ†

この上記2冊の著者は、カミュのペストを新訳版で出版されています

私は研究者ではないのでこの作品はこう読むものだ、とはっきり言えないですが、読後にいろんなことを考えることのできる作品はやはり名作だと思います。

何年か経ってまた読み返した時に、自分がどんな感想を得るのか楽しみでもあります。

「異邦人」を読んでカミュの考える不条理の哲学を知りたくなったので、「シーシュポスの神話」を読むきっかけにもなりました。

異邦人の関連本はたくさんありますが、中でも注目していただきたい作品があります。「もうひとつの異邦人」という小説で、カミュの異邦人とは別の視点で描かれたものになります。これはぜひカミュの異邦人を読んだあとにおすすめの作品です。

シーシュポスの神話

手に持ったシーシュポスの神話

この本はカミュの考える哲学を知りたくて読みました。哲学に精通していないと全てを理解するのは難しいですが、カミュの考え方や彼の書く文学が好きなら、読み応えのあるエッセイだと思います。

私自身わからない部分もありながら読み進めてみて、しかし心に引っかかった言葉がたくさんあったのでこれもまた再読の一冊になりました。

以下は本文からの引用になります。

†黑ミリ†

ネタバレが嫌な方はスルーしてください。

異邦人を読んだあとだからこそ、引っかかった言葉

実際、だれについて、何について、「ぼくはこれなら知っている!」ということができるだろう。

ぼくのうちなるこの心、ぼくはそれを感じることができるし、それがたしかに存在しているとぼくは判断する。

ー中略ー

自分がたしかに存在しているということについての確実さと、この確信にぼくがあたえようと試みる内容、そのあいだの溝は、いつまでたってもけっして埋められることはないだろう。

永久に、ぼくはぼく自身にとって異邦人であるだろう。

シーシュポスの神話  不条理な論証  38ページから39ページより抜粋

世界は不条理だとぼくは何度も語ったが、ぼくは言葉をいそぎすぎたようだ。

この世界はそれ自体としては人間の理性を超えている、ーこの世界について言えるのはこれだけだ。

シーシュポスの神話  不条理な論証  42ページより抜粋
†黑ミリ†

異邦人の世界が、少しわかった気がしました。

カミュが言う、偉大な小説家とは

偉大な小説家とは哲学者的小説家である。すなわち、問題小説作家とは逆のものである。名前をいくつかあげれば、バルザック、サド、メルヴィル、スタンダール、ドストエフスキー、プルースト、マルロー、カフカがそうだ。

シーシュポスの神話  不条理な創造  178ページより抜粋

ドストエフスキーについて

おそらく、ドストエフスキーほど、この不条理な世界に、これほど身近かで、これほど苦しみを味わわせる魔力をあたえた小説家は、ただのひとりもいないであろう。

シーシュポスの神話  不条理な創造  194ページより抜粋

カフカについて

じつをいえば、カフカの世界とは、なにも出てきはしないと知りながら風呂桶で釣りをするという身を噛むような贅沢を人間が自分にさせている言語を絶した宇宙なのである。

シーシュポスの神話  フランツ・カフカの作品における希望と不条理  229ページから230ページより抜粋
†黑ミリ†

私はカミュの作品を読んでから、彼の言う偉大な小説家の作品も全て読みたいと思いました。

シーシュポスの神話とは

神々がシーシュポスに課した刑罰は、休みなく岩をころがして、ある山の頂まで運び上げるというものであったが、ひとたび山頂にまで達すると、岩はそれ自体の重さでいつもころがり落ちてしまうのであった。

無益で希望のない労働ほど怖ろしい懲罰はないと神々が考えたのは、たしかにいくらかはもっともなことであった。ー中略ー

こんにちの労働者は、生活の毎日毎日を、同じ仕事に従事している。その運命はシーシュポスに劣らず不条理だ。

シーシュポスの神話  シーシュポスの神話210ページと213ページより抜粋
†黑ミリ†

私達の日常が、ギリシャ神話でいうと懲罰にあたると考えると、不条理な世界に生きているのだと実感します・・・

「幸福な死」を読んで「異邦人」を掘り下げる

茶色い表紙の伏せた本

「異邦人」という作品は私のような凡人には難解な作品です。そこで少しでも理解を深めるために読むといい作品があります。それは、カミュの死後に発表された初期の幻の小説「幸福な死」です。

この小説は巻末の解説によると、カミュ自身が公表しなかった作品なので小説というより資料として読むのがいいとあります。私も実際に読んでみてそう感じました。主人公の名前も、「異邦人」はムルソーで「幸福な死」はメルソーだったり、カミュの描きたかったテーマも似ていると思いました。

資料であるといっても、小説として面白くないわけでは決してありません。個人的には、ムルソーが別の世界線で生きていたらこんな物語なのかなと想像すると面白いと思います。あるいは逆にメルソーの別の世界線の物語が「異邦人」であるともいえるような。

この「幸福な死」の物語自体は「異邦人」よりもわかりやすいと私は思いました。だからこそ、凡人に理解できる物語をカミュ自身が公表しなかったというのにも納得がいきます。

それにしてもそんな幻の作品を読めて良かったです。「異邦人」と「幸福な死」、2つの作品を読み比べてみたら、カミュの描きたかったテーマについて少しは理解ができる気がします。

メルソーの印象的な言葉

もしぼくがいま幸福だとしたら、それはぼくのうしろめたさのおかげなんだ。ぼくは立ち去る必要があったし、こうした孤独をつかまえなければならない必要があったんだ。その孤独のなかでこそ、ぼくは、自分のなかでぶつからなければならないものにぶつかることができたし、それはつまり、太陽であり涙でもあったものなんだ・・・そうだ。ぼくは人間として幸せなんだ

幸福な死 第二部 意識された死 179ページより抜粋

カミュ未完の自伝的小説 最初の人間

こちらの小説も、カミュの死後に発表された作品ですが未完成であるのと、所々空欄になっているので少々読みづらいと感じるかもしれません。空欄になっている理由として、最初のページに注意書きがあります。

これはアルベール・カミュが亡くなったとき手掛けていた作品である。原稿は1960年1月4日に彼の鞄の中から見つかった。筆の流れるままに書かれていて、ところどころ句読点もなく、走り書きした、解読のむずかしいもので、カミュが書いた後で手を入れた形跡はない。

最初の人間 編者の注より抜粋

カミュは、1960年の1月4日に交通事故で亡くなっています。この自伝的小説が完成された作品でないことがとても悔やまれます。しかしこの作品はカミュを知るうえで大変貴重なものであることは、言うまでもありません。

ちなみにこの作品は映画化もされています。このことからもわかる通り、亡くなってもなお多くの人々を魅了する作家の作品であるといえるでしょう。

物語の中では、少年時代の貧困にあえぐ場面が多くあり、それがとても印象的でした。

ジャックとピエールにとってこうした喜びを与えてくれるのは学校だけだった。またあれほど情熱的に愛していたものは、恐らく自分たちの家では見つけることのできなかったものであった。家では貧困と無知が、生活をいっそう辛いものに、いっそう味気ないものに、それ自体で閉ざされているようなものにしてしまっていた。

貧乏は跳ね橋のない要塞である。

最初の人間 第一部 父親の探索 180ページより抜粋

少年時代の印象的なエピソード

彼らは洗練されたものは必要としていなかった。何も知らなかったので、何でも知りたかったのである。本の出来が悪く、構成もよくないときでも、ただそれがはっきりと書かれていて、激しい生活を描いたものでありさえすれば、そのようなことは二人にとってはどうでもよかった。そのような本も、二人だけには、夢の糧を与えることができ、二人はその後で、それを思い返しながら、ぐっすりと眠ることができた。

最初の人間 第二部 息子あるいは最初の人間 299ページより抜粋

まとめ

カミュ2冊の文庫本

いかがだったでしょうか。「異邦人」と「シーシュポスの神話」をセットで読むことで、より両方の作品を味わいつくすことができるのです。

そして作品及びカミュという作家について深堀りするならば、「幸福な死」と「最初の人間」を流れで読むことをオススメします。

名作は読みっぱなしにせず、ぜひ再読も含めて楽しんでください。

また新たな自分の考えに出会えるかもしれません。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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この記事を書いた人

† 黒本 未莉 くろもとみり †


† 1982年 東京生まれ  


† 高校中退の元書店員、現在は夫と二人暮らし。
 
 本が好き。

 読書の魅力を、自分の言葉で伝えていきたい。

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