今回紹介する本は、岩波文庫版 神谷美恵子訳 の自省録です。とても古い本(なんと初めて印刷になったのは、1558年とのこと)なのでいろんな版が出ていますが、こちらがオススメです。
それは訳者の神谷美恵子さん(精神科医で思想家、多くの著作がある)が、この自省録に深く傾倒していてその思いが伝わり、読みやすくなっているからです。
神谷美恵子の作品はこちらです。
ちなみにこの自省録は、2022年1月からスタートしたフジテレビ系の月9ドラマ、ミステリと言う勿れ の中でも登場します。ドラマの影響で買った人も多いと思います。余談ですが、このドラマの原作は少女漫画でこちらも面白い作品なので、気になった人はチェックしてみてください。
読んだ感想
大ローマ帝国の皇帝であり、哲学者でもあった、マルクス・アウレーリウス。こんな賢人がどんなことを考えて生きていたのか、哲学者ではない現代の人たちにもずっと読み継がれているなんて本当にすごいことです。

皇帝というだけでもすごい肩書なのに哲学まで!!
本の題名の通り、手記として書かれたものなので哲学書とはいえない。けれど、ストア哲学に傾倒した彼を通してその当時の哲学思想を知ることができる。
更に、本書は人に公開する前提で書かれていないので、本当に日記を読んでいる感覚に近い。ストア哲学をもっと勉強していたら、わかる部分も多かったかもしれない。
ダイモーンという言葉が頻繁にでてくるので、意味を押さえておくとわかりやすく読める。
ダイモーンとは
神的存在を指す一般的な語だが、哲学では理性、人間の内なる神的部分を表す。
自省録第2巻11の注
日記というものすごくプライベートな文体でありながら、だからこそ彼の内面がぐっと迫ってくるようでした。
誰にも見せない書物にこそ本音が隠されていると私は思うのですが、そんな場面ですら賢人であり続けるなんて、いやはや頭が下がる思いです。



自分の生活がいかに生ぬるいか、思い知らされました。。。
心に刺さる名言
ここからは、本書の中で個人的に刺さった言葉を抜粋しますので、 ネタバレが嫌な方はスルーしてください。
他人の悪意にさらされ、疲弊しているときに刺さる言葉
隣人がなにをいい、なにをおこない、なにを考えているかを覗き見ず、自分自身のなすことのみに注目し、それが正しく、敬虔であるように慮る者は、なんと多くの余暇を得ることであろう。
(他人の腹黒さに眼を注ぐのは善き人にふさわしいことではない。)目標に向かってまっしぐらに走り、わき見するな。
自省録第4巻18より抜粋



他人の腹黒さにばかり振り回されている自分に、辟易している・・・そんなときは、この言葉を思い出して居住まいを正すこと。
生きていくのは大変だけど、そんなときに刺さる言葉
君が自分の義務を果たすにあたって寒かろうと熱かろうと意に介すな。また眠かろうと眠りが足りていようと、人から悪くいわれようと賞められようと、まさに死に瀕していようとほかのことをしていようとかまうな。
なぜなら死ぬということもまた人生の行為の一つである。それゆえにこのことにおいてもやはり「現在やっていることをよくやること」で足りるのである。
自省録第6巻2より抜粋
眠りから起きるのがつらいときには、つぎのことを思い起こせ。社会に役立つ行為を果たすのは君の構成素質にかなったことであり、人間の(内なる)自然にかなったことであるが、睡眠は理性のない動物にさえも共通のことである。
しかるに各個人の自然にかなったことはその人にとってなによりも特有なことであり、なによりもふさわしいことであり、したがってなによりも快適なはずである。
自省録第8巻12より抜粋



目覚まし時計に貼っておきたいくらいの言葉ですね・・・
ただただ、名言
君の肉体がこの人生にへこたれないのに、魂のほうが先にへこたれるとは恥ずかしいことだ。
自省録第6巻29より抜粋
善い人間のあり方如何について論ずるのはもういい加減で切り上げて善い人間になったらどうだ。
自省録第10巻16より抜粋



胸に刺さる言葉・・・肝に銘じて生きていきたい。
おわりに
この本の最後に載っている訳者解説を読んで、マルクス・アウレーリウスという人物について知りました。
彼は平和愛好者でありながら皇帝という立場で戦争をしなければならず、そして哲学者として生きて本を執筆することは叶わなかったのだそうです。
自分の思うように生きられない苦悩は現代人にも通ずるけれど、彼の比ではないだろう。そんなことを思うと、今の自分はなんて恵まれているのだろうと思えました。
最後までお読み頂きありがとうございます。



賢者の魂は、書物によって永遠に受け継がれていく。

